神話の国・出雲で楽しむ神々に捧げる舞「出雲神楽」を観賞

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筆者 : GOOD LUCK TRIP
監修 : 出雲観光協会

荘厳な雰囲気に包まれ、縁結びの神・福の神として名高い大国主命(オオクニヌシノミコト)を祀る「出雲大社」が佇む島根県出雲市。旧暦10月は「神在月」と呼ばれ、全国から神々が集うと言われている地域でもあり、多くの神話の舞台となったことでも知られている。

そんな神秘的な背景も影響し、悠久の時を経て現在に受け継がれているのが出雲神楽だ。神職の格好で神事としての舞をするほか、江戸期に発展したと考えられる木彫りの面を着け、出雲神話を再現する神能と呼ばれる神話劇のスタイルが特徴で、秋の収穫時期を終えた街のあちらこちらの諸社で出雲神楽が奉納され、多くの人びとに愛され続けている。

2024年1月の出雲ウィーク(1月29・30・31日のいずれか2日間)には、出雲神楽のすばらしいステージが鑑賞できるのはもちろん、「神在月」に行われるさまざまな神事を追体験できる特別なイベント「神が旅する出雲へ ~日本の精神文化を神話で紐解く「出雲の日」特別体験~」が開催予定で、出雲神楽の魅力にふれることができる貴重な体験をすることができる。

目次

壮大なドラマを生み出し、古代ロマンを感じさせてくれる神話の舞台

日本海沿いで、山陰地方の西側に位置している島根県。出雲は、県の東部の一角を占めており、シジミの産地としておなじみの宍道湖に面している。また、古くから日本最古の書物である「古事記」や、歴史書の「日本書紀」などで神話の舞台として数多く取り上げられている。

出雲を題材にした神話のなかでも、とりわけ有名なのが「ヤマタノオロチ伝説」で、ストーリーは八つの頭を持つ大蛇のヤマタノオロチを、男神の須佐之男命(すさのおのみこと)が退治するという内容。須佐之男命と妻である稲田比売命(いなだひめのみこと)を祀る「須佐神社」をはじめ、この神話にちなんだ場所が出雲地方に残っている。

日本一のパワースポットとして紹介されることもある「須佐神社」
日本一のパワースポットとして紹介されることもある「須佐神社」

また「大国主大神(オオクニヌシノオオカミ)」が主人公で、出雲の国を天上界の神に話し合いで譲った「国譲り神話」も有名だ。国を譲る代わりに大国主大神のために建てられたのが「出雲大社」で、この神話の舞台が「稲佐の浜」である。「稲佐の浜」にはぽこんと海に浮かぶ弁天島があり、夕焼け時には絶好の写真スポットとして世界中から観光客が訪れる。

「稲佐の浜」は出雲大社の西方に位置。中心に玉毘古命を祀る弁天島が浮かぶ
「稲佐の浜」は出雲大社の西方に位置。中心に玉毘古命を祀る弁天島が浮かぶ

出雲の象徴といえるのが、縁結びの神・福の神として崇められている「出雲大社」だ。1000年以上の歴史があり、旧暦10月の「神在月」には全国から神々が集う神秘の古社は、運気アップ間違いなしの神聖な場所。世界中からこの地を目指して訪れる参拝者が多く、大国主大神(オオクニヌシノオオカミ)が主祭神で、出雲神話においては「因幡の素兎(しろうさぎ)」にも登場する「大黒さま」としても有名だ。
壮大なドラマを生み出し、古代ロマンを感じさせてくれる出雲は、神話と現実が交錯するエリアといっても過言ではない。縁起の良い土地で生まれた、日本古来の製鉄「たたら」、鮮やかなコバルトカラーが映える陶器「出西焼」の伝承にも触れつつ、神々が宿る地域の魅力を感じよう。

「因幡の素兎」に登場する大国主大神を主祭神として祀る「出雲大社」
「因幡の素兎」に登場する大国主大神を主祭神として祀る「出雲大社」

全国から神々が集う神在月には欠かせない、いにしえから続く神楽

神楽とは、「神が宿る場所=神座(かむくら)」に、神を迎えるために神社へ奉納する儀式のひとつとして挙げられ、その起源はおよそ1300年前にさかのぼるという。

神を迎えることで、最終的に目指しているのは、神の力を得て生命力を高め、神と人が共に栄え・共に幸せになること。古くから自然のあらゆるものに神が宿ると考えられてきた日本において、人間が自然に対して共鳴し、共感する心を具現化する美意識を大切にしながら、寺社仏閣の神域に設けられた神楽殿で今なお披露されている。

神楽は各地で行われているが、島根県は全国でも有数の神楽が盛んなエリアといわれており、神楽を継承する団体は県内でおよそ200を数える。長い歴史の中でさまざまな変遷をとげながら多彩な流派が形成され、各地で独自の姿を残してきたという。

多くの神話のストーリーを、今に伝え継いでいる出雲神楽
多くの神話のストーリーを、今に伝え継いでいる出雲神楽

出雲神話を今に伝える分かりやすいストーリーで、老若男女から親しまれている「出雲神楽」。金糸銀糸を織り込んだ豪華絢爛な衣裳に、活気ある太鼓囃子と哀愁あふれる笛の音色が印象的な「石見神楽」。古風な形式を真摯に守り、巫女をはじめ、神に仕える神職の舞が重要な部分を担う「隠岐神楽」と、出雲だけでなく、近隣の石見・隠岐とそれぞれ特色ある舞を受け継いでいる。

特に、出雲大社のお膝元で行われる「出雲神楽」は、神在月には欠かせない神事となっており、厳かで慎ましい演舞が大きな魅力となっている。

神を楽しませるために舞い、踊る、いにしえから続く出雲のエンタテインメント
神を楽しませるために舞い、踊る、いにしえから続く出雲のエンタテインメント

出雲神話がテーマ。艶やかな衣装と面、風雅な演奏のハーモニーが際立つ

「出雲神楽」の最大の特徴といえば、「七座」「式三番(しきさんば)」「神能(しんのう)」の三種類の舞で構成されている点であろう。「七座」は、面をつけずに神楽の場を清めるために演じられ、お祓い的な意味合いをもっており、「式三番」は能楽の祝いの曲を取り入れた創造性豊かな舞で、子どもたちが演者となる場合もある。「神能」は出雲地域を舞台にした演目が数多いのも特徴だ。

4人の舞手が神楽の場を払い清める「七座」と呼ばれる儀式
4人の舞手が神楽の場を払い清める「七座」と呼ばれる儀式
豪華な衣装と、面を身につけて行われる「神能」
豪華な衣装と、面を身につけて行われる「神能」

出雲神話がテーマの「出雲神楽」の代表的な演目において、とりわけ有名なのが「天の岩戸」の神話を背景とした神楽「香具山(かぐやま)」。天の岩戸にこもってしまった天照大神(あまてらすおおみかみ)に出てきてもらうため、春日大明神(かすがだいみょうじん)と大山祗命(おおやまづみのみこと)が奮闘するストーリーで、神事で榊の木(常緑種の一種)が不可欠な理由が理解できる内容になっている。

出雲大社で奉納される「野見宿禰」
出雲大社で奉納される「野見宿禰」

ほかにも、相撲の始祖といわれる野見宿禰(のみすくね)が、当麻蹴速(たいまのけはや)という力持ちと組み合って戦うシーンを舞で表現し、日本の相撲の始まりを描いた神楽も注目。さらに漁業や商売繁盛の神と崇められる恵比須さまを称え、鯛釣りの場面を舞う「恵美須」など、多彩なストーリーがラインアップしている。

迫力満点の「ヤマタノオロチ伝説」
迫力満点の「ヤマタノオロチ伝説」

神楽を鑑賞する際は、凛とした舞の表現力を引き立てる奏楽(音楽)に加えて、道具や衣装にも注目しよう。

奏楽で用いる楽器は、鼕(つづみ/大太鼓)、締太鼓(小太鼓)、笛、手拍子(銅拍子)、大鼓、小鼓などがあり、演目ごとで使い分けられている。合奏でありながら、楽譜はなく指揮者もいないのが一般的。舞の様子を傍目で見つつ、阿吽の呼吸で演奏していくため、奏者同士の信頼関係が非常に重要になってくるそうだ。

長年受け継がれる道具、高価な布を用いて仕立てる衣装もすばらしいが、木を掘り出して作る面を使用するのが出雲神楽ならではといえるだろう。面は、演目の登場人物である神や鬼になりきるためには不可欠で、職人がひとつずつ思いを込めて制作した一点ものばかり。独特の塗料で色付けするほか、髭・眉毛には馬の尻尾の毛をあしらうなど、細部にいたるまでこだわりが詰まっている。この面に注目して神楽を鑑賞するのも面白いだろう。

木を掘り出して丁寧に仕上げていく、榊の面
木を掘り出して丁寧に仕上げていく、榊の面
制作期間に数ヶ月、凝ったデザインであれば数十万する衣装もあるそう
制作期間に数ヶ月、凝ったデザインであれば数十万する衣装もあるそう

宗教や住む地域に関係なく、神楽を鑑賞して出雲のすばらしさを深く知る

このように出雲神楽には、演目だけでなく音楽や衣装など見どころが散りばめられており、言葉はわからなくても洗練された舞のすばらしさや長年受け継がれた敬虔な様子は見る者の心を惹きつける。かつては旅行者らのおもてなしで披露されたという経緯もあったことから、出雲のエンタテインメントという表現がふさわしいだろう。

とはいえ、神事であることには変わりないので、格式が高そうに感じるのも無理はないが、その心配は無用。現代の神楽は宗教や住む地域に関係なく、誰でも気軽に鑑賞することができる。ちなみに1演目は30~40分ほど。演目の合間に席を立つこともできるので、リラックスした環境で神楽の魅力に触れよう。
各地域の神楽の担い手は、その地域出身者や関係者を含む一般の方が中心。代々受け継がれている伝統を守るべく、舞の保存と継承に努めている。団体によっては子どもが演じる神楽もあり。

出雲各地で定期公演が行われているのでまずは気軽に神楽に触れてみよう
出雲各地で定期公演が行われているのでまずは気軽に神楽に触れてみよう

ちなみに鑑賞できる場所は、神社のお祭りでの奉納をはじめ、各種イベント、発表会などがメインとなる。1年を通じて定期的に神楽は行われているので、詳細に関しては出雲観光協会のサイト内、公演情報のページをチェック。数ある公演の中でも、神楽団体が一同に介して行われる出雲市無形文化財連絡協議会による「出雲市無形文化財発表会」が一押しだ。

出雲市無形文化財発表会での公演
出雲市無形文化財発表会での公演

まとめ

いかがでしたか?
神々が集う出雲で古より神社で奉納されてきた「出雲神楽」。現在では神聖な儀式でありながらも、出雲のエンタテインメントとして多くの人びとを魅了し続けている。