日本人の食文化に深く根ざす「納豆」とは

日本人の食文化に深く根ざす「納豆」とは

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筆者 : GOOD LUCK TRIP

独特の匂いとネバネバ感が特徴の「納豆」は、日本人の食文化に深く根ざしているスーパーフードの代表格。
日本では朝食に欠かせない定番メニューであり、白ごはんと一緒に食べられることが多い。
この記事では、概要や歴史をはじめ、種類・お勧めの食べ方など、様々な角度から納豆について紹介する。
最後まで読めば、これまで持っていた納豆のイメージが変わり、実際に挑戦してみたいと思えるだろう。

日本人の食生活に根付く「納豆」

納豆とは、大豆を原料に納豆菌(枯草菌)によって発酵させた食品。
充分に大豆を蒸し、冷ました後、稲の藁苞(わらづと)で包み適切な環境下で1日ほど発酵すると、天然の納豆菌が繁殖して納豆ができる。
ちなみに、これは伝統的な製法で現在は培養した納豆菌を用いて作られることが多い。
「糸引き納豆」と「塩辛納豆(寺納豆)」の2種類に大別され、単に納豆と呼ぶ時は「糸引き納豆」を指す。
日本では古くから日常的に食べられている伝統的な食品だが、ネバネバの食感と独特の強い香りを持つため、日本人でも苦手な人はいる。
特に西日本には、納豆が苦手な人は比較的多い。
かつては魚や野菜などに代わる栄養源として納豆が食べられていたが、日本の西側では魚が容易に手に入ったため、納豆を食べる習慣が根付かなかった。
このような歴史的背景が、現在でも西日本には納豆が苦手な人が多い理由と言われている。

納豆を食べることで期待できる健康効果

納豆は栄養バランスに優れた健康効果の高い食べ物として知られている。
主な栄養素に、良質なたんぱく質・ビタミンK2・ビタミンB群・カルシウム・ナットウキナーゼ(納豆特有の酵素)などが含まれ、1度で様々なエネルギーを摂取できるのが特徴だ。
これらの栄養素は、骨の健康維持・血栓予防・腸内環境の改善・疲労回復といった効果が期待される。
手軽かつ低カロリーでありながら、これほど多くの栄養素を持つ単体の食品はほとんど存在しない。
加熱せずに生で食べる方が、納豆の栄養を効率よく摂れるのでお勧め。

栄養バランスに優れた健康食品である納豆
栄養バランスに優れた健康食品である納豆

糸引き納豆の種類

「糸引き納豆」は、形状や作り方、粒の大きさによって複数の種類に分類される。
ここでは、よく見られる3つの「糸引き納豆」について紹介しよう。
同じ種類でも特徴は異なるので、実際に食べる時や購入時の参考にしてほしい。

1. 丸大豆納豆

「丸大豆納豆」は、皮を剥かずに大豆を丸ごと蒸して作る最も一般的な納豆。
大豆の旨みやコクがしっかりと残っており、噛むほどに豆の甘みを感じられるのが特徴だ。
皮がある分、弾力があり「豆を食べている」という食感も楽しめる。
使用する大豆の大きさで、「大粒大豆(7.9 mm~9.1mm)・中粒大豆(7.3mm)・小粒大豆(5.5mm)・極小粒大豆(4.9mm)」と分類される。
また、大豆の品種や納豆菌によっても、匂いや風味が異なり、付属のタレなども含めると非常に種類が豊富だ。
日本人は小粒を好む傾向が強く、家庭では「小粒大豆・極小粒大豆」がよく食べられている。
どのタイプでも栄養価はそれほど変わらないので、好みの大きさを選ぶのがお勧め。

粒の大きさによる分類も存在する
粒の大きさによる分類も存在する

2. ひきわり納豆

「ひきわり納豆」は、大豆を砕いて皮を取り除いた後、納豆菌をつけ発酵させて作る納豆。
丸大豆納豆よりも粒が小さく、見た目も細かいのが特徴だ。
皮が取り除かれ、納豆菌が広範囲につくので、丸大豆納豆よりも旨みを感じやすい。
粘り気の強さと口当たりの良さがあり、納豆巻きや和え物など様々な料理で活用されている。
納豆独特の匂いもやや控えめ、消化吸収が良いことから初めて納豆を食べる人や子供、外国人にもお勧め。

丸大豆納豆よりも粒が小さいひきわり納豆
丸大豆納豆よりも粒が小さいひきわり納豆

3. 五斗納豆

「五斗納豆(ごとなっとう)」は、ひきわり納豆に塩と麹を加えて発酵・熟成させた納豆。
主に山形県置賜(米沢)地方の保存食として古くから伝わる郷土食で、五斗(約90リットル)の大樽を使って納豆を仕込んだことが名前の由来と言われる。
現在は「雪割納豆」という商品名で販売されていることが多い。
見た目は納豆よりも味噌のようで、強い塩味と発酵による濃厚な旨みを持っており、タレや醬油を加えずに食べられる。
ご飯のお供やお酒のつまみなどにも人気で、幅広く活用できるバリエーションの広さも魅力のひとつ。

山形県置賜地方に伝わる伝統的な保存食が五斗納豆
山形県置賜地方に伝わる伝統的な保存食が五斗納豆

諸説ある納豆の発祥

納豆の発祥については諸説あるが、はっきりとした起源は明らかになっていない。
ただ、「八幡太郎義家説」が有力な説として挙げられることが多い。
平安時代(794年~1185年)末期に、武将・源義家(みなもとよしいえ)が東北地方を遠征中に、煮た大豆を藁に包んで保存したところ、自然発酵して糸を引くようになったとされる。
これが、藁に棲む納豆菌(枯草菌)が自然に大豆を発酵させることを発見するきっかけになったと考えられている。
兵士たちが実際に食べてみると味も良く食料となり、やがて農民にも伝わったという。
また、それ以前から東アジア各地では発酵大豆食品が存在しており、弥生時代(前10世紀頃~後3世紀中頃)には納豆らしき食べ物はあったという説も存在する。
いずれも煮た豆と藁が関係しており、ほんの偶然でできたものが日本独自の発展を遂げて、現在まで至る。

様々な納豆発祥説はあるが、いずれも煮た豆と藁が関係している
様々な納豆発祥説はあるが、いずれも煮た豆と藁が関係している

納豆の誕生から普及までの歴史

納豆という言葉が初めて文献に登場したのは、平安時代中期の「新猿楽記(しんえんがくき)」。
この文献での納豆は糸を引かない塩辛納豆だと言われ、お寺で作られることが多かったようだ。
僧侶の台所「納所(なっしょ)」で作られた「豆料理」から「納豆」と呼ぶようになったという説が有力である。※諸説あり
一方、糸引き納豆は室町時代(1336年~1573年)の「精進魚類物語(しょうじんぎょるいものがたり)」で初めて確認されている。
江戸時代(1603年~1868年)中期になると、納豆は一般庶民の食卓に並ぶまで普及する。
次第に朝食に納豆を食べる文化が広まり、当時は「納豆売り」の商人が掛け声とともに売り歩いていた。
近代以降は、藁で発酵させる方法から衛生的な包装や機械製造へと移行、保存性・流通性も向上し、全国で一般的な食品となった。

現代では朝食の定番メニューとなった納豆
現代では朝食の定番メニューとなった納豆

バリエーション豊かな日本人の納豆の食べ方

納豆の最も基本的な食べ方は、納豆と付属のタレ・カラシを合わせ、かき混ぜてからご飯にのせる「納豆ご飯」。
ちなみに、納豆を混ぜると粘り成分が空気を含んで、ふんわりとした食感が増すと言われている。
混ぜる回数によって栄養価は変わらず、正解もないので自分の好みで決めると良いだろう。
匂いに抵抗がある人は、醤油やわさびなどの調味料を追加すると食べやすくなる。
また、地域差や個人差もあるが、食パンに乗せた「納豆トースト」や味噌汁に加えた「納豆汁」も広く親しまれている。

納豆を混ぜる理由は食感を良くするためだ
納豆を混ぜる理由は食感を良くするためだ

ちょい足しで楽しむ

納豆にタレ・醤油をかけるだけでなく、その他の調味料や食材を足して楽しむ日本人も多い。
ちょっとした工夫で風味・食感がぐっと広がり、普通に食べるのとはまた異なる味わいを堪能できる。
以下の表に、定番から変わり種までちょい足しの具体的な例を5つまとめた。
これら以外にも相性の良い食品は多く、自分好みの組み合わせを見つけると納豆をより好きになるだろう。

刻みネギ
ちょい足しの定番。シャキシャキした食感と香りが加わるうえに、疲労回復の効果も期待できる。
卵(生卵・温泉卵)
まろやかさが増し、納豆のクセがやわらぐ。
キムチ
発酵食品同士で相性が抜群、ピリ辛でご飯も進む。腸内環境を整えるのにもぴったり。
しらす
旨みと塩気がプラスされ栄養価もアップ。
大根おろし
納豆の風味が引き立ち、さっぱりと食べられる。刻み海苔も合わせると磯の香りがアクセントになって旨みが増す。
ネギの辛みや香りが納豆の独特な風味とよく合う
ネギの辛みや香りが納豆の独特な風味とよく合う

納豆を足したアレンジ料理を楽しむ

納豆を使ったアレンジ料理を楽しむ日本人も多い。
納豆はクセが強い反面、工夫次第で驚くほど幅広い料理に活用でき、旨みや栄養価を高めることも可能だ。
主なアレンジ料理を以下にまとめたので、参考にしてほしい。

納豆チャーハン
香ばしく炒めたご飯と納豆の旨みが絶妙に絡み合ったアレンジレシピの王道。
納豆パスタ
茹でたパスタに納豆と醤油、バターやネギを絡める和風でヘルシーな一品。
納豆オムレツ
ふんわり卵と納豆のコクが絶妙にマッチし、朝食向きの栄養価の高い料理。
納豆グラタン
ホワイトソースとチーズの濃厚な味わいに納豆の旨みが加わり、意外性と美味しさを兼ね備えた料理。
油揚げの納豆ピザ
カリッと焼いた油揚げを生地にし、納豆・チーズをのせて焼くだけと調理も簡単でおつまみやおやつにぴったり。
納豆の粘りと粒感はパスタの食感と相性抜群
納豆の粘りと粒感はパスタの食感と相性抜群

バリエーション豊かな納豆味のお菓子を楽しむ

納豆で作られたお菓子、納豆風味のお菓子もある。
例えば、納豆そのものを乾燥させてカリッと食感に仕上げたスナック菓子は、納豆特有の香りと粘りを残しながらも食べやすい。
納豆パウダーを生地に練り込んだクラッカー・せんべいなどは、ほんのりとした塩気とコク深い味わいが特徴だ。
また、チョコレート・キャラメルと組み合わせたスイーツ系のユニークな商品も隠れた人気を集めている。
いずれも満足度が高いうえに、納豆の栄養を手軽に取り入れられるヘルシーさも魅力のひとつ。
実際に納豆を食べたような感覚になるので、納豆への苦手意識が強い方はお菓子から挑戦してみるのがお勧め。

クセになる美味しさの手巻納豆はおつまみにも人気のお菓子
クセになる美味しさの手巻納豆はおつまみにも人気のお菓子

納豆が食べやすくなる組み合わせ

苦手な人や食べたことがない人は、納豆の特徴的な匂いやネバネバ感に拒絶反応を示すことが多く、いきなり単体で食べるのはハードルが高い。
ただ、レシピを工夫すれば見た目のインパクトが和らぎ、受け入れやすくなる。
上述したアレンジ料理もその一例だが、さらに3つ加えて紹介する。
もちろん、人によって感じ方は違うものの通常よりは食べやすいだろう。
納豆への苦手意識を克服しようと思っている方はいずれかを試してみるのがお勧めだ。

納豆カレー
スパイシーなカレーに納豆のまろやかな風味とコクが加わり、奥行きのある味わいを生み出す。意外と相性がよく病みつきになる。
納豆ニラチヂミ
外はカリッと中はふんわりとした食感が楽しめ、納豆のネバネバ感を気にせずに食べられる。チーズやキムチを入れると匂いもやわらぐ。
スタミナ納豆丼
納豆と鶏そぼろ(ひき肉)を長ネギ、生姜などと一緒に炒め、最後に生卵をのせた一品。栄養バランスもよく、食欲がない時にもお勧め。
納豆の旨味がカレーのスパイスと相乗抜群の納豆カレー
納豆の旨味がカレーのスパイスと相乗抜群の納豆カレー

スーパーやコンビニでも気軽に手に入る納豆

納豆は日本全国どこでも手に入りやすく、気軽に楽しめるのも魅力だ。
主にスーパーやコンビニエンスストアなどで、丸型もしくは四角型のパックが3~5セットで売っている。
1パック100円前後とリーズナブルな価格帯も嬉しいポイント。
飲食店・レストランのメニューに並ぶことはあまりないので、日本に訪れた際はスーパーやコンビニで購入するか、ホテルの朝食ビュッフェでぜひ挑戦してみてほしい。

手軽に食べられるパック入り納豆
手軽に食べられるパック入り納豆

日本には「納豆のまち」がある?

納豆の生産量全国1位を誇る茨城県水戸市は「納豆のまち」と呼ばれている。
江戸時代に水戸藩(現水戸市)が納豆の作付けを奨励したため、納豆作りに盛んな土壌があり、原料の確保にも適していた。
明治時代(1868年~1912年)に入ると、水戸市の笹沼清左衛門(ささぬませいざえもん)が「天狗納豆」を創業し、納豆の製造技術を確立する。
さらに、1889年の水戸鉄道(現JR水戸線)の開通に伴い、駅前広場で小粒納豆を土産品・水戸名物として売ると人気を集め、全国的に知られるようになった。
水戸市は納豆の生産地だけでなく、納豆をテーマにしたイベント・施設も多く、地域全体で納豆文化を盛り上げており、食品の枠を超えて市民から親しまれている。

納豆のまちで作られている「水戸納豆」

「水戸納豆」は茨城県水戸市を代表する特産品のひとつ。
上述の笹沼清左衛門が商品化した独自の「天狗納豆」を老舗が受け継いだ、伝統と品質の高さ、豊かな風味が大きな特徴。
国産の良質な小粒大豆を使うため、ご飯と絡みやすく、他の納豆とは異なる強い粘りと深い旨みが感じられる。
現在も職人の技を活かした手作り品や藁に包んだ納豆が親しまれ、観光土産としても人気だ。
市内には4社の納豆事業者があり、それぞれ種類や味が異なる「水戸納豆」を製造している。
なかでもお勧めの商品を紹介しよう。

納豆のオブジェがある水戸駅前
納豆のオブジェがある水戸駅前

水戸納豆を食べるなら「水戸元祖天狗納豆」がお勧め

明治43年(1910)創業、110年以上の歴史を持つ老舗が手がける水戸名物。
商品は、昔ながらの製法でほどよい歯応えが味わえる「わら納豆」、使いやすい「パック納豆」、切り干し大根が入った「そぼろ納豆」、旨みが凝縮された「ほし納豆」がラインナップ。

老舗がこだわりの素材と伝統製法で作る水戸の名物
老舗がこだわりの素材と伝統製法で作る水戸の名物

日本には納豆の日がある?

「納豆のまち」があるだけでなく、日本には「納豆の日」も存在する。
1981年、納豆の消費量が伸びなかった大阪や京都を含む関西地方で消費拡大を目的に、関西納豆工業協同組合が7月10日を納豆の日と定めた。
当初は関西地方限定の記念日だったが、1992年に全国納豆工業協同組合連合会が納豆の日としてあらためて制定したことで、日本全国に広く知られるようになった。
関西地方とは対照的に日本でトップクラスの消費量を誇る福島では、納豆の日にはスーパーなどで納豆のセールが開催される。

毎年7月10日は納豆の日
毎年7月10日は納豆の日

納豆に関するよくある質問

Q

納豆の発祥は?

A

納豆の発祥は明らかになっていません。様々な説がありますが、平安時代末期の「八幡太郎義家説」が有力な説のひとつに挙げられることが多いです。

Q

納豆の1日の摂取量の目安は?

A

明確な基準はありませんが1日に1パックを目安に考えると良いでしょう。納豆の食べ過ぎは逆効果になるので気をつけてください。

Q

納豆を混ぜる意味は?

A

混ぜることで粘り成分が空気を含み、ふんわりとした食感や旨みが増すと言われています。混ぜる回数で栄養価は変わりません。

まとめ

この記事では、納豆の発祥や種類、お勧めのアレンジ料理方法を中心に紹介してきた。
納豆は単なる食材ではなく、日本人の体を支える健康食であり続けている。
人や地域によって味・食べ方に違いがあるのも魅力で、日本ならではの食文化および多様性を映し出す存在と言えるだろう。
独特の匂い・粘りに苦手意識を持つ人も多いが、それも個性のひとつだ。
まだ食べたことがない人は、ぜひ一度納豆を食べてみてほしい。