
【世界遺産・唐招提寺の観光ガイド】行く前に知りたい見どころと基本情報
律宗の総本山「唐招提寺(とうしょうだいじ)」は、日本仏教史において極めて重要な名刹のひとつ。
奈良時代(710年~794年)の建築や仏教美術を今に伝える文化財の宝庫であり、世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産にも含まれている。
この記事では唐招提寺の概要と歴史、見どころを中心に紹介していく。
初めて訪れる人でも最大限に満喫できるように、御朱印の特徴・お勧めの観光シーズンなど役に立つ情報を網羅的にまとめたので、ぜひ最後まで読んでほしい。
唐招提寺ってどんなところ?
奈良県奈良町に位置する「唐招提寺」は、南都六宗のひとつである律宗の総本山。
中国・唐から来日した高僧・鑑真和上(がんじんわじょう)が、日本に正しい戒律を伝えるために759年に開いたお寺だ。
奈良時代建立の金堂・講堂をはじめ、国宝・重要文化財の指定を受けた仏像や建造物が数多く現存している。
1998年には「古都奈良の文化財」の構成遺産として世界遺産にも登録された。
現在も当時の面影をとどめており、荘厳な雰囲気が漂う境内で天平文化を色濃く残す唐風建築、鑑真和上ゆかりの歴史に触れられるのが魅力だ。
四季折々の庭園や青空を背に映える伽藍の姿、季節ごとに行われる伝統行事も見どころ。
ご本尊は宇宙の真理をあらわす「盧舎那仏坐像(るしゃなぶつざぞう)」。
心身の安寧を授けてくださり、参拝者は心の平穏・家庭円満などのご利益を願うことができる。

唐招提寺の成り立ち
鑑真和上は度重なる失敗や盲目という困難を乗り越え、6度目の渡航で745年に来日する。
当時日本には正式な伝戒師(戒律を授ける僧侶)がいなかったため、鑑真和上の来日は僧侶の育成と仏教の発展において大きな意味を持っていた。
その後、朝廷から譲り受けた新田部親王(にいたべしんのう)の旧宅地に下賜し、759年に修行道場の私寺「唐律招提(とうりつしょうだい)」を開く。
当初は経蔵・宝蔵などのみの質素なものだったが、鑑真和上の教え・戒律を学ぶ場として機能し、多くの僧侶が育った。
鑑真和上の死後、弟子・如宝(にょほう)らの尽力によって、8世紀後半に金堂の完成、伽藍を整えた後、官学(政府公認)を賜り「唐招提寺」に改称されたと言われる。以降、時代の変遷とともに再建・修復が行われ現在に至る。
唐招提寺へのアクセス
奈良観光の移動拠点であるJR「奈良駅」を起点にした、唐招提寺へのアクセス方法を以下にまとめた。
路線バスを使えばお寺の目の前まで乗り換えなしで行けるが、運行本数は30分に1本程度なので事前に時刻表を確認しておくと良いだろう。
近鉄線「近鉄奈良駅」からも記載のバスに乗車すれば、同じようにアクセスできる。
ちなみに、唐招提寺の最寄り駅は徒歩10分程度で着く近鉄線「西ノ京駅」。
同駅は世界遺産「薬師寺」も近いため、周辺の街並みを散策しながら2つのお寺を巡るのもお勧めだ。
- 経路
-
1. JR「奈良駅」から「JR奈良駅東口6番のりば」まで徒歩で移動。
2. 「JR奈良駅東口6番のりば」から奈良交通78系統・奈良県総合医療センター行に乗車し、「唐招提寺」で降車、徒歩1分で到着
※奈良交通98系統・法隆寺前行に乗車し、「唐招提寺東口」で降車のルートも可 - 所要時間
- 約25分
唐招提寺の拝観料と参拝可能時間
唐招提寺の拝観時間は、8:30〜17:00。最終受付時間は16:30となっている。
拝観料は以下の通りだ。
- 大人・大学生
- 1,000円
- 高校生
- 400円
- 中学生
- 400円
- 小学生
- 200円
唐招提寺のお勧め観光シーズンは?
唐招提寺のお勧めの観光シーズンは春。
鑑真和上の故郷・中国揚州市から贈られた珍しい名花「瓊花(けいか)」の存在が大きな理由だ。
4月下旬~5月上旬の見頃にかけて「瓊花特別開園」が実施され、普段は立ち入れない御影堂供華園内に咲き誇る、ガクアジサイに似た白く可憐な瓊花を楽しめる。
また、境内を彩る淡い花々と新緑が調和し、歴史的建造物・伽藍を背景にした絵画のような風景も堪能できる。
静寂に包まれた空間で春のやわらかな光と瓊花の香りを感じながら、心安らぐひとときを過ごせるだろう。

ここだけは外せない!唐招提寺の見どころ5選
唐招提寺には国宝・重要文化財をはじめ、歴史や伝統を今に伝える貴重な建造物が非常に多い。
その中でもお勧めの見どころ5つに絞って紹介していく。
いずれも最古の建物、現存する唯一の遺構など、ここでしか見られない建築様式・文化を目の当たりにできる価値の高いスポットだ。
内容も参考のうえ唐招提寺を訪れた際、これらは絶対に巡ってほしい。
1. 金堂
国宝「金堂(こんどう)」は、奈良時代に建てられた金堂では唯一現存する貴重な遺構。
お寺における中心的な建造物で、仏像を安置し、僧侶や参拝者が仏教の教えを学び、祈りを捧げるための空間である。
寄棟造・本瓦葺の重厚な造りは、唐の様式を受け継ぎながらも日本の気候風土に合わせた美しさを持ち、正面七間・奥行き四間の堂々たる構えが特徴だ。
柔らかな光が差し込む堂内には、ご本尊「盧舎那仏坐像」を中心に薬師如来、千手観音などの国宝の仏像が並び、天平時代(729年~749年)の荘厳な雰囲気を今に伝えている。
唐招提寺の精神を映し出す素朴な力強さ、約1,300年の時を超えた歴史を感じてほしい。

2. 経蔵
国宝「経蔵(きょうぞう)」は、日本最古の校倉(あぜくら/木材を水平に積み重ねる工法)造の唐招提寺で最も古い建造物。
創建以前の新田部親王邸の米倉を改造したもので、切妻造・本瓦葺のシンプルな造りが特徴だ。
ちなみに「経蔵」とは、経典・寺宝を収蔵するための建物を指し、主に仏教の教えを後世に伝える役割を担う。
正倉院よりも古いと言われる校倉造の遺構を間近で見学できるのが最大の魅力。
全体的に静謐な雰囲気をまとい、柱・梁に施された組物や木目からは長い年月を経た風格を感じさせる。
北隣の「宝蔵」も見どころで「経蔵」と並ぶ姿が美しい。

3. 鼓楼
1240年創建の国宝「鼓楼(ころう)」は、境内で唯一の2階建て楼閣(ろうかく/重層の建築物)。
金堂と講堂の間に位置し、和様を基調にしつつ鎌倉期の大仏様(天竺様)も取り入れた新和様の珍しい造りが特徴だ。
上下階とも縁と高欄を設け、壁面は扉・連子窓で構成、堂内の厨子には金の亀に塔を乗せた国宝「金亀舎利塔」が安置されている。
なお、本来「鼓楼」とは、鐘楼(しょうろう)と対を成す建物で、主に法要や時刻を知らせるために太鼓を打ち鳴らす場所である。
しかし、唐招提寺では太鼓ではなく、鑑真和上が唐から請来した仏舎利(釈迦の遺骨)を奉安しているので「舎利殿(しゃりでん)」と呼ぶことも多い。

4. 講堂
国宝「講堂」は、平城宮の東朝集殿(ひがしちょうしゅうでん)を移築した建造物。
移築時にお寺用にするために入母屋造へ改造、深い屋根裏が見える天井を張り、窓や出入口を設けた開放的な空間になった。
ちなみに「講堂」は僧侶たちが仏教の教義を学び、論議・法要を行う場所だ。
現在の姿は鎌倉時代(1185年~1333年)に修理された影響が大きいと言われるが、唯一残る奈良時代の宮殿建築は、当時の面影をとどめる建物として極めて貴重な存在である。
内部には、重要文化財のご本尊「弥勒如来坐像(鎌倉時代)」、国宝「持国天・増長天立像(奈良時代)」などが安置されている。
学び舎の役割を担い続けた歴史的雰囲気、時代ごとの建築技術の変遷・融合を感じられる特別なスポットだ。

5. 開山堂
もともと「開山堂」は、元禄時代(1688年~1704年)に歴代の徳川将軍を祀る御霊殿として建立され、1881年に鑑真和上の尊像を安置するために現在地へ移築した。
その後、御影堂に鑑真和上像が移されると徳川家康(とくがわいえやす)らを祀る「本願殿」に改称。
2013年に再び「開山堂」に名称を戻し、現在は鑑真大和の姿を写した「御身代わり像」が祀られている。
「開山堂」では歴史的な建築様式とともに、いつでも鑑真和上の尊像を拝観できる点が魅力だ。(特別期間を除き「鑑真和上坐像」の拝観は不可)
堂内は静謐な空気に包まれ、周囲の苔庭とのコントラストも美しい。
鑑真和上の偉業や日本仏教への貢献に感謝しつつ、追悼の意を込めると良いだろう。

唐招提寺で御朱印はもらえる?
御朱印とは、神社・お寺を参拝した証もしくは修行の一環としていただける印章と筆書きのことである。
唐招提寺では、御朱印は主に以下4種類の御朱印をいただける。
- 盧舎那仏の御朱印
-
唐招提寺を代表する御朱印。金堂のご本尊「盧舎那仏」を墨書し、中央に寺名・印が押されている。
大和北部八十八ヶ所第26番札所としての御朱印を兼ねた版もある。 - 千手観音の御朱印
- 金堂に安置される「千手観音」の墨書と御朱印が押されている。
- 鑑真和上の御朱印
- 開祖・鑑真和上の御霊を偲ぶ御朱印。和上の姿を象った印影が特徴的。
- ロータスロード(蓮華蔵)の御朱印 ※期間限定
- 四ヶ寺(唐招提寺・西大寺・喜光寺・薬師寺)を巡って楽しむ蓮の文様が重ね押しされた特別版の御朱印。
これらは境内売店の横にある御朱印所(納経所)で授与が行われ、500円の初穂料を納めると書き置きもしくは直書きで対応してもらえる。
唐招提寺オリジナルの御朱印帳の購入もお勧め。

お土産や観光の記念にピッタリ!唐招提寺で購入したいアイテム
唐招提寺の売店では、お守りだけでなく様々な商品が販売されている。
その中でも特に注目を集める2つのアイテムを紹介しよう。
いずれもお土産や観光記念にぴったりなので、気になるものは参拝時にぜひ購入してほしい。
唐招提寺と鑑真和上とゆかりの深い「お香」
お土産として特にお勧めなのが歴史と伝統を感じられるお香。
鑑真和上は仏教文化だけでなく、お香の調合法や香料、漢方を日本に伝えた人物としても有名だ。
唐招提寺では鑑真和上とゆかりの深い以下4種類のお香を販売しており、参拝者からも人気も高い。
- 天平香 瓊花
- 鑑真和上の故郷・揚州の名花「瓊花」を再現したお香で、清涼感と甘みが調和する爽やかな香りが特徴
- 天平香 沈香
- 薬用にも用いられる沈香が主体で、深みある気品高い香りが特徴
- 唐招提寺蓮香
- 八重咲き紅蓮の種子を練り込んだお香で、上品さと甘さが織りなす凛とした香りが特徴
- 唐招提寺青蓮香
- 一重咲きの青蓮(緑がかった白)の種子を練り込んだお香で、透明感のあるフローラルな香りが特徴

様々なご利益をもたらす「宝扇」
「宝扇(ほうせん)」とは、ハート型をした特別なうちわ。
起源は諸説あるが、法華寺の尼僧が鎌倉時代の中興の祖・覚盛上人(かくじょうしょうにん)の教えを偲び、蚊を殺さずに打ち払うために捧げたうちわだとされる。
和紙を用いて寺内で一つひとつ手作りする唐招提寺の宝扇は、千手観音や烏須沙摩明王の御真言が梵字で印刷され、魔除け・病魔退散・虫除けなどのご利益をいただけるのが特徴だ。
毎年5月19日に行われる「うちわまき」法要で参拝者に撒き、その年の無病息災・開運を祈願している。
初夏の奈良を彩る風物詩で多くの参拝者が授かろうと集まり祝祭的な空気の中で賑わう。※通常時も売店で購入可

唐招提寺と合わせて巡りたい周辺観光スポット3選
最後に唐招提寺周辺にあるお勧めの観光スポットを3つ紹介する。
いずれも奈良ならではの歴史や文化、伝統を体験でき、誰もが楽しめる人気スポットだ。
いずれも人気の高いスポットなので、唐招提寺と併せて巡ってより充実した旅行にしてほしい。
1. 薬師寺
「古都奈良の文化財」の構成資産の一つとして世界文化遺産に登録される法相宗の大本山。
中央に本尊を祀る金堂を、その左右に塔を配し回廊で囲んだ「薬師寺式伽藍配置」を日本で初めて採用。また、仏堂や塔に裳階(もこし)と呼ばれる飾り屋根を付けることにより、実際よりも多層に見え壮麗な印象を与える「竜宮造り」の建築様式が特徴的だ。

2. 平城宮跡歴史公園
710年の平城京遷都により日本の都として栄えた場所。唐の都・長安をモデルにした約2,500haの総面積を誇る大規模な都には10万人以上の人びとが暮らしていたとされている。「平城宮」は平城京の中核施設で、天皇の住まいとして政治や行事が行われていた。
現在は復元された朱雀門、第一次大極殿、第一次大極殿院 南門(復元中)、第二次大極殿、東院庭園などが「平城宮跡歴史公園」として整備・保存されている。

3. 奈良 金魚ミュージアム
国内有数の金魚の産地として知られる奈良県に誕生した、日本最大級の金魚ミュージアム。観光型複合商業施設「ミ・ナーラ」内で、気鋭のアーティストたちが手掛けた最先端の「エンターテイメントアクアリウム」を楽しむことができる。
世界初となるダイアモンドカットの水槽にステンドグラスやミラーボールによる演出をプラスした「JAPANESE AQUARIUM DISCO」や、21本の和傘と妖艶な光で江戸の町並みを再現し、日本の美を堪能できる「JAPONE小路」など個性豊かなエリアが楽しめる。

唐招提寺に関するよくある質問
Q
唐招提寺は誰が建てたの?
759年に唐の高僧・鑑真和上によって建てられました。
Q
薬師如来とは?
病気を治し心身の健康を守ってくれる薬壺を持った仏様です。東方浄瑠璃世界の教主であり、「医薬の仏」として広く信仰されています。
まとめ
唐招提寺の成り立ちや見どころを中心に、周辺の人気観光地を紹介してきた。
1,300年以上の歴史を感じさせる佇まいが唐招提寺の魅力だ。
境内では静寂な空気と四季折々の庭園風景が心を落ち着け、日本最古の建造物、格式高い唐風建築などの国宝・重要文化財を拝観できる。
ぜひ唐招提寺を含む、世界遺産・古都奈良の文化財を巡って仏教文化を深く味わってほしい。
定番の観光スポット、お勧めグルメ・宿泊施設といった、奈良観光を楽しむために必要な情報をまとめた、こちらの記事も要チェックだ。