日本最古の本格的仏教寺院・元興寺の観光ガイド
世界遺産に登録されている「元興寺」には、国宝や重要文化財に指定を受けた建造物や仏像がいくつもある。
日本仏教の発祥の地とも言われており、歴史的にも文化的にも価値の高いお寺と名高い。
正門にあたる「東門」から「本堂」をはじめとした境内の建物まで見どころにあふれ、四季折々の花が観光客を魅了する。
この記事では「元興寺」を楽しむために、その歴史からお勧めの観光スポットまで紹介しているので、ぜひ参考にしてほしい。
元興寺ってどんなところ?
奈良県奈良市にある「元興寺」は、南都七大寺のひとつに数えられる由緒あるお寺。
五重小塔(ごじゅうしょうとう)・智光曼荼羅(ちこうまんだら)など「元興寺」にある多くの建造物や仏像は国宝・重要文化財として指定を受けている。
1998年には世界文化遺産「古都奈良の文化財(構成資産の1つ)」に登録され、「元興寺」の歴史・価値が世界的にも認められた。
そんな「元興寺」の魅力と言えば、日本最古の本格的仏教寺院という歴史的な価値に加えて、奈良の風情がある景観と調和した美しさだろう。
約1,400年前の飛鳥時代から使用されている本堂・禅室の屋根瓦は、「元興寺」の見どころとも言えるので見逃さないでほしい。
行基葺き(ぎょうきぶき)と呼ばれる手法を用いて瓦が張られており、長い年月使用したことを物語るように赤・茶・黒などのさまざまな色の瓦が混じっている。
また、境内に咲き誇る四季折々の花や木々がとても綺麗なのでお勧めだ。
元興寺の歴史と成り立ち
「元興寺」は飛鳥時代に蘇我馬子(そがのうまこ)が、甥にあたる崇峻天皇(すしゅんてんのう)が即位したのを機会に創建された「法興寺(飛鳥寺)」を前身に持っている。
この「法興寺」が平城遷都に伴い718年に奈良の地に移され、寺名が「元興寺」と改められたのが始まりだ。
奈良時代の「元興寺」は「東大寺」・「興福寺」と並んで隆盛を誇り、現在の「ならまち」の大部分を占める広大な敷地を有していた。
平安時代以降は衰退・縮小が進み、現在は「本堂」・「塔跡」・「小塔院跡」と3つのお寺に分かれているが、一般的に「元興寺」を指すのは「本堂」だ。
1977年に「元興寺極楽坊」から「元興寺」に改称されている。
昭和初期までは今の姿が想像できないほど荒れていたが、戦後に整備が進んだことで改修された。
元興寺へのアクセス
奈良観光の移動拠点であるJR奈良駅と近鉄奈良駅から「元興寺」へのアクセスは下記の表の通りだ。
徒歩でも各駅から20分程度なので、街並みを散策しながら向かっても良いだろう。
出発地点 | 経路 | 所要時間 |
---|---|---|
JR奈良駅 | 奈良交通バスの5番乗り場(東口)「1系統 市内循環・内回り」へ乗車し、「田中町」にて下車。バス停から徒歩5分。 | 約15分 |
近鉄奈良駅 | 奈良交通バスの3番乗り場(西北出口)「天理駅行」へ乗車し、「福智院町」にて下車。バス停から徒歩5分。 | 約10分 |
元興寺の拝観時間と拝観料
元興寺の拝観時間と拝観料は、下記の表の通りだ。
境内は飲食禁止なので、注意してほしい。
- 拝観時間
- 9:00〜17:00(入門は16:30まで)
- 拝観料
-
・大人:500円
・中学生〜高校生:300円
・小学生100円
元興寺のお勧め観光シーズンは?
「元興寺」を観光するなら椿・桜が見頃の春がお勧めだ。
3月~4月にかけて開花する約100本の椿は境内を彩り、4月上旬からは禅室近くに植えられた影向桜(ようごうさくら)が咲き誇り舞い散る。
その光景は美しく印象的で、花のお寺とも呼ばれている「元興寺」を存分に楽しめるはずだ。
日本仏教の歴史と日本情緒を感じられる!元興寺の見どころ5選
南都七大寺の1つに数えられる「元興寺」には、国宝・重要文化財に指定された建造物が多く魅力が満載だ。
日本仏教の発祥の地とも言われている「元興寺」の歴史・文化を堪能できる、絶対に外せない見どころを5つ紹介しよう。
1. 日本最古の屋根瓦が今もなお使われている「元興寺極楽堂(極楽坊本堂)」
境内に入ると正面に建っているのが「元興寺極楽堂(極楽坊本堂)」。
奈良時代までは僧房(僧侶の住居)だったが、鎌倉時代に改造が行われ本堂と禅室に分かれた。
4方向に屋根を持つ寄棟造(よせむねづくり)の妻側(三角形に見える側)が正面になるように造られているのが特色である。
一般的な寺院とは異なり、本尊(信仰の対象)が極楽浄土を描いた「智光曼荼羅」となっている。
約1,400年前の飛鳥時代から現在もなお使用されている、日本最古の屋根瓦も見逃せない。
2. 伝統的な建築様式が見どころの「東門」
「元興寺本堂」の正門になっているのが、重要文化財にも指定されている「東門」。
鎌倉時代に「東大寺」の門として建立されたものが、「元興寺」へ移されたと記録されている。
1244年に「興福寺」の復興事業の一環により「元興寺」が東向きの寺院に改められたことで「東門」が正門になった。
「東門」は伝統的な建築様式の四脚門(よつあしもん)と呼ばれる6本の柱から成り立ち、切妻造(きりづまづくり)の本瓦葺(ほんがわらぶき)が採用されており、その堂々たる姿は圧巻だ。
3. 悠久の歴史を感じられる「元興寺禅室(極楽坊禅室・春日影向堂)」
「元興寺本堂」の西側に位置する細長い建物が「元興寺禅室」だ。
お経を納めていた「影向間」から取られた「春日影向堂(かすがようごうどう)」と、中世には呼ばれていた。
鎌倉時代の改造によって本堂と禅室に分かれたことは説明した通りだ。
「元興寺本堂」と同様に屋根の一部に飛鳥時代の瓦が使用されており、「元興寺禅室」も国宝に指定されている。
2000年の調査・研究で禅室に使われている木材の一部が、世界最古の木造建築「法隆寺」よりも古いと発表された。
4. 高さ5.5mの小さくも美しい「五重小塔」
本堂の南側に位置する「法輪館」に収蔵されている「五重小塔」。
高さ5.5mと文字通り小さな塔であるが、手作業によって繊細かつ忠実に表現された彫刻や色彩が美しいので必見だ。
中に入れるサイズではないが、内部まで実際の建造物のように作られていることから、建造物として国宝に指定されている。
諸説があるが「五重小塔」が造られた目的は謎に包まれている点も面白い。
実際にその目で見て考えるという楽しみ方もできるだろう。
5. 侘び寂びを感じられる「泰楽軒(茶室)」
「泰楽軒」は「元興寺」の中にある四畳半の茶室と三畳の水屋で造られた茶室。
指物師(釘などを使わずに木や板の組み合わせで建物を造る職人)の川崎幽玄(かわさきゆうげん)によって1994年に建築された。
川崎氏の指物師としての確かな技術と古材への愛着によって、侘び寂びを感じさせる見事な茶の空間になっている。
庭には梅・菊・蘭・竹が植えられ、茶道の世界で愛好されている鞍馬石(くらまいし)など複数の石が配置されているため、見応えがある。
通常は非公開となっており見学には予約が必要になるので注意してほしい。
レトロな街歩きが楽しめる「ならまち」
元興寺の旧境内を中心としたエリアに江戸時代から明治時代に建てられた町家が今も残り、レトロな街歩きが楽しめる「ならまち」も、元興寺と合わせてぜひ観光してほしい。
京都や金沢と並ぶ、全国的にも希少な奈良の旧市街地で、歴史は奈良時代に平城京の外京として整備されたことに始まり、都が平安京に遷された以降も周囲に数多くある仏教寺院とともに発展を維持。
江戸時代中期には猿沢池周辺が「お伊勢参り」の宿場町として栄えたことから昭和中期までは奈良の商業地の中心地であった。
現在はレトロな街並みの中にカフェや飲食店、雑貨店が並び、幅広い世代が訪れる観光スポットになっている。
和を感じられる元興寺周辺の飲食店3選
元興寺周辺には飲食店も多く、グルメも満喫できる。
街並みを楽しみながらの食べ歩き、古民家で歴史を感じながら一休み、といったように楽しみ方はさまざまだ。
ここで紹介する3店舗には、元興寺観光と合わせて立ち寄ってほしい。
1. 中谷堂
高速餅つきで有名な和菓子店だ。
高速餅つきはただのパフォーマンスではなく、店主の故郷・奈良県上北山村で行われている伝統的なつき方で、餅本来の柔らかさやコシを生み出している。
そのこだわりは製法だけにとどまらない。
佐賀県産のもち米や、北海道十勝産の上質な小豆、愛媛県宇和島産のよもぎの新芽に、国産きな粉など、素材も選び抜かれたものばかり。
よもぎの風味が口に広がり、甘さ控えめの餡が絶妙に絡み合う一品になっている。
よもぎ餅以外にも、約9種のせんべいが用意され、食べ歩きにぴったり。
2. カナカナ
江戸〜明治時代にかけての町家が多く立ち並び、近年は洗練されたカフェやショップでにぎわう「ならまち」エリア。
この地における先駆的な一軒が「カナカナ」だ。
築100年を超える町家をリノベーションした古民家カフェで、店内に入るとどこか懐かしい記憶をたどるような心地に。
テーブル席のほか、靴を脱いで上がりちゃぶ台で食事ができる畳席もある。
3. まほろば大仏プリン本舗
奈良みやげとしても人気の「まほろば大仏プリン」は、カスタードをはじめ奈良特産の大和茶や奈良の地酒・初鹿を使った日本酒プリン、吉野の桜をトッピングした奈良八重桜など県の素材を贅沢に使ったバリエーション豊かなラインナップが魅力。
安心・安全に食べることができるよう、極力添加物を使わず、ひとつずつ丁寧に手作りしている。
元興寺周辺の歴史観光スポット3選
元興寺周辺には国宝・重要文化財に指定されている建物が多く、歴史を感じさせる魅力的な観光スポットが盛りだくさん。
これから紹介する3つのスポットは「元興寺」と合わせて、ぜひとも観光してほしい。
1. 興福寺
藤原鎌足の私邸、山階寺として山背国・山階陶原(やましろのくに・やましなすえはら)に建てられたのがはじまりで、和銅3(710)年、平城京遷都にともない藤原不比等の計画により現在の場所に移され、「興福寺」と改名。
境内には鎌倉時代に再建された北円堂をはじめ、室町時代に再建された五重塔や東金堂など、国宝建築物や江戸時代に再建された南円堂などの重要文化財が立ち並ぶ。
国宝館には、阿修羅像をはじめとする乾漆八部衆立像など、国宝に指定される寺宝を安置。多くの寺宝・文化財を見られる。
2. 東大寺
「奈良の大仏さま」として親しまれている、盧舎那仏坐像が安置される世界最大級の木造建造物、大仏殿をはじめ、東大寺建築のなかで最も古い法華堂(三月堂)、国内最大の山門である南大門など、境内には国宝建造物が多数。
二度の戦禍を免れ、創建時の伽藍建築の面影をみることができる正倉院西側の転害門も見どころ。
1998年には「古都奈良の文化財」として、春日大社や興福寺などとともに世界遺産にも登録された。
3. 奈良公園
貴重な歴史的文化遺産である、春日大社、興福寺、東大寺、奈良国立博物館、正倉院等々と、これらをとりまく雄大で豊かな緑の自然美を楽しめる公園。街の中心部に位置しており、各観光スポットへのアクセスの良さも魅力。
「春日山原始林」(特別天然記念物)をはじめとし、「奈良のシカ」「春日神社境内ナギ樹林」「知足院ナラノヤエザクラ」「ルーミスシジミ棲息地」など多くのものが天然記念物に指定されている。
公園に生息するシカは人に慣れており、販売している「鹿せんべい」を購入すれば、餌付けを楽しむことも可能。
元興寺に関するよくある質問
Q
元興寺は誰が建てたの?
飛鳥時代に蘇我馬子によって建てられました。
Q
元興寺のご利益は?
健康長寿・無病息災などのご利益があります。
Q
元興寺で御朱印帳はもらえる?
智光曼荼羅(御本尊)など5種類の御朱印がもらえます。
まとめ
国宝や重要文化財が多く、奈良の歴史・文化を感じられる「元興寺」の見どころを紹介してきたが、いかがだっただろうか。
歴史的価値だけでなく、境内に咲き誇る四季折々の花や木々などの自然と仏教文化が見事に溶け込んだ美しさも魅力だ。
「元興寺」は奈良観光で訪れやすい立地にあるため、観光プランに組みやすいだろう。
今回紹介した場所以外の奈良周辺にある、お勧めのスポットをまとめたこちらの記事も参考にしてほしい。